overture-序曲

何の前ぶれもなく、光は自分の実家に生後数ヶ月の赤ん坊を連れてきた。 光の母である彰子はその赤ん坊を一目見て、自分の遺伝子が含まれていないことを悟った。

小さい頃の光にも似ていないし、光の最初の子供、最初の嫁に引き取られた彰子にとっての初孫にも、全然似ていなかった。

その赤ん坊の肌の色、骨格、目は、光が連れてきた女と同じだった。

美佐子という19歳の女性に、彰子は良い印象をもてなかった。
モデルをやっていたといわれれば確かに華奢で身長が高くスタイルは良かったが、猫背で、声も低く、華麗な印象ではなかった。
喋ることが苦手な様子だったが、それはおそらく、敬語を知らないからだと彰子は思った。

光は以前から美佐子と付き合っていたとは思えなかった。

光の最初の結婚相手も美佐子と比べれば、もう少し愛想がよかった。

当時、光は最初の離婚をしたばかりで、まだ歩きはじめたばかりだった彰子にとっての初孫は、嫁側の親族が連れて行った。

今まで、問題ばかり起こしていた光だったが、光の元に、彰子にとっての初孫が生まれた時、彰子は「結局この次男坊が一番の親孝行だった」とまで思ったのに、結局はその初孫と二度と会うことが出来ないことで、苦しみは倍増する結果となった。

でも、光には、その責任を背負わせたのかもしれないと感じた。

光が自分の寂しさを紛らわすためにどこの馬の骨ともつかない女と一緒になろうとしているように彰子には思えた。

全く縁もゆかりもないその連れ子の面倒をみるなんて、常識的に異常だと思う。
だが、自分自身、突然赤ん坊を手渡され、その顔を見て、その異常な欲求を否定することが出来なかった。

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