The Rolling Thunder Revue – Bob Dylan Live 1975

5.0
ALBUM

先ず、このレコードは”Bootleg Series Vol.5″として、2002年に発売されたもので、録音された時点では商品発表される目的はなかったと思われる。

1975年周辺のレコードを、年表的に列記すると

1974年1月、ザ・バンドをバックに従えた8年ぶりの全米ツアーと共に、アサイラムレコードより「プラネットウエイヴス」を発表。

プラネット・ウェイヴス

そして、6月にはそのライブ・アルバムを発表。

偉大なる復活

1975年1月、最高傑作という評価も多い、内省的なアルバム「血の轍」を発表。

血の轍

6月に、1966年のモーターサイクル事故の後、ザ・バンドのメンバーと地下室で録音したけど公式レコードとしてラインナップされることのなかった、いわゆる「海賊版」が流行るきっかけとなった録音データを公式発売する。

地下室(ザ・ベースメント・テープス)(紙ジャケット仕様)

その後、7月にボブ・ディランは劇作家であるジャック・レヴィと曲作りに入る。

なんと、詩の共同作業だ。アルバム「欲望」に収録される大半の曲をジャック・レヴィとの共同作業で作っている。ジャック・レヴィとは何者?と思った方は、
↓↓こちらを参考に

【ISIS Selection 12】悪魔に無関心な歌〜ジャック・レヴィー・インタビュー
by デレク・バーカー
forkN

ジャック・レヴィーとボブ・ディランの共同作業では、先ず最初に「Isis」を作り、次に「Hurricane」を作った。


Hurricane

ルービン・(ハリケーン)カーターは3人の白人を銃で撃ち殺したとして有罪判決を受けたアメリカ合衆国のボクサーで、冤罪を訴えて自伝を出版していた。

最終的にアルバム1枚出せるほどの曲が出来たという。

7月28日、ボブ・ディランはこれらの曲を含む「欲望」のレコーディングを始める。

実際に発売されるのは1976年の1月だ。


Desire (Reis)

このレコードは、欲望のレコーディングが始まってから、レコードとして発表される間に位置している。


Vol. 5-Bootleg Series: Bob Dylan Live 1975

ちなみにこれは第2期ローリング・サンダーレビューで、録音は1976年5月だ。実は個人的にはこっちの方が好きだ。聞けば判る・・・かも?理由はともあれ、正式版としてディラン自身がレコード化している訳だし、それなりに録音クオリティはこっちの方が高いと思うが、1975年の第1期ツアーとは中身というか、ツアーとしても意味合いはかなり違ってしまっているらしい。とはいえ、個人的にはライブとしては一番好きなアルバムといっても過言ではない、かも。

Hard Rain

大雑把にいってこの時期のボブ・ディランの活動は、おそらく、1966年のモーターサイクル事故以前の喧騒に次ぐ、大きな動きだったと個人的には思っている。もちろんそれをどう評価するかは個人的な問題であって、実際の所、興味深く思っている人はそれほど多くないのも現実だと思う。逆にいえば、だからこそこういう記事を書く事にも意義があるとも思う。

ちなみに1966年のいわゆるフォークロックムーブメントの渦中について、マーティン・スコセッシが編集した映像を見る事が出来るようになっていることは、当時では考えられない、幸せな時代の到来といっても良いだろう。


ボブ・ディラン ノー・ディレクション・ホーム [DVD]

もちろん、この編集の映像が全てではないが、当時の活動は良い意味で評価されて残っている。当時はブーイングだった訳だけれども、今では誰もが賛同出来る何か、とても判りやすいものがあるのだと思う。それはいわゆる反逆者的な立ち位置の代表というか、この後のパンク・ムーブメントに通じる反体制的な立ち位置としての評価を(本人が望んでいた、いないは別として)当時のアイドルとして、一手に担う立場となった、その時代的背景は大きかったと思う。

それにひきかえ、この1975年当時のボブ・ディランの活動はおそらく単純に判りやすいものではないだろう。時代は既に様々な失望を経験し、サイケデリック、プログレッシブ、ボブ・ディラン自身がレコードで辿ってきたカントリーミュージックへの原点回顧や、ディランの影響を受けたオルタネイトミュージックとしてのアーティスト達が活動する土壌が出来てきており、1966年には存在していなかった色々なもので溢れかえるようになっていた。時代背景も作品自体も複雑で入り組んでいる。

なのでこのブログ1ページで語る事が出来る気もしないのだが・・・頑張ってみたいと思う、失敗しても所詮個人のブログだ。

先にも書いたが、ボブ・ディランは1975年の7月頃、ジャック・レヴィと共に、「Isis」「Hurricane」など1ダース程の曲を作り、そのレコーディングをする事と、その「ドサ回り的な興行スタイル」を思いついたようだ。

そのドサ回りが、このRolling Thunder Revueツアーだ。

このアルバムはボブ・ディランのパフォーマンスしか収められていないのだが、実際の講演はスティーブン・ソールズ、ミック・ロンソン、ロニー・ブレイクリー、ボブ・ニューワース、ジャック・エリオットらのパフォーマンスも含まれていたようだ。

ジャック・レヴィ、パリ・テキサスの脚本家として後に有名になるサム・シェパードを含む、後に「レナルド&クララ」として映画を製作するのだが、この映像クルーを含む、総勢70人からの一行が数台のキャンピングカー(フランク・ザッパに借りたと言われている)で移動したらしい。

アルバム「欲望」のレコーディングから、このツアーのリハーサル、そして実際のツアー敢行まで、このボックスセットに収められている。


Rolling Thunder..-Box Set

CD14枚組だ。
このレコードの「サンプル」がApple Musicにもあるので、試聴をおすすめする。


ローリング・サンダー・レヴュー:1975年の記録 (完全生産限定盤) (特典なし)

おおっと国内販売もされているんだね、1万5千円か・・・音源台というより、対訳ブックレット代に価値を見出すのか、でもまあ、記念品的価値観で考えれば・・・うう~む、悩むところだが。

 

さて、いずれにせよ、この公式?ブートレッグシリーズは、この大量な音源の中の、厳選された内容という訳だ。

この収録が最高傑作かというと、じっさいには違う。詳細は前の14枚組を聴いてもらえればと思うが、リハーサル時点と、75年12月時点でのボブ・ディランの声質が劇的に変化するのが判るし、バンドの演奏が最初は慎重であったものが、後半ではノリノリになっている事が判る。ジャック・レヴィとの最初の共作と言われている「Isis」がその違いを一番表していると思う。これはブートレッグ・シリーズより先に発売された「バイオグラフ」に収められていた、「Isis」だ。ここには上の「SUMPLER」と同じ1975年12月4日モントレーバージョンが収められている。

さて、この記事を下書きに入れたまま放置している間、最近、NETFLIXに『ローリング・サンダー・レヴュー:マーティン・スコセッシが描くボブ・ディラン伝説』というオリジナル映画があることを知る。

Netflixに入らないとみる事は出来ないが、1か月お試しで無料で見る事も可能だ。(もちろんお金を払ってずっと見る事も可能だ)

この映像は「レナルド&クララ」が見られない現代において非常に貴重だ。どうやら純粋なドキュメンタリーではなくフェイクが仕込まれているとのことだが、そのあたりは大した問題ではないだろう。「レナルド&クララ」だってドキュメンタリーじゃないし、当時の雰囲気が判ることが重要だ。

ここまで来て、この記事が何について書いているのか判らなくなる。レコードなのか、映画なのか・・・というより、1975~1976年当時のボブ・ディランの動きがすごいという事が伝わればそれで良いのではないかと思う。この乱雑な配置だけではその凄さが殆ど伝わらないかもしれないが、ボブ・ディランの第一回目のピークが1965年~1966年のフォーク・ロック時代(前出のマーティン・スコセッシによる ノー・ディレクション・ホーム のエンディングまでだとしたら、これは第二回目のピークなのは間違いないし、その後もこれ以上のピークはないと(個人的には)思っている。

1965年のピークの時点では、アコースティックを捨ててエレクトリックサウンドに移行したディランに対するファンとのやり取りはある意味判りやすかったかもしれないが、このローリングサンダーレビューは様々な要素が錯綜していて何処に主眼を置いていいのか、ある意味判り難いと思う。でもその様々な錯綜がまた凄いし、音楽的にも幅広く、過去の曲も曲によっては全く違ったアレンジとなり、新しい曲に生まれ変わっている。(そしてその後も変わり続けるのだが・・・)

とにかく難解ではあると思うが、時間をかけて取り組んでもらいたい。昔は情報も少なく、「血の轍」、「欲望」「激しい雨」の3レコードから想像するしかなかった「ローリング・サンダー・レビュー」が今は聴けるし、映像としても見れるようになった事は本当に喜ぶべき事といえるだろう。

後は、お蔵入りしている「レナルド&クララ」4時間版の復刻だろう。

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