プロローグ その3 雅子と光彦 – なりゆき主夫のリアルな日常 – 楽天ブログ(Blog)

光彦の両親とも奄美諸島出身だ。
長寿で有名な美しい島である。
しかし、島出身者にとっては本土の人間には言えない、色々な想いがあるようだ。
父は若くして養子に出され、若いうちから働いた。
単身上京して昼は働き、夜間大学で勉強をした。
結婚する前に、一人でそれなりの財力を築いた。
母は子供の頃戦争で家を焼かれ、進学の費用を親から出してもらえなかった。
年長の兄弟を頼って上京し、工場で働いた。
島では裕福な暮らしは存在しない。
島における「既定の概念」は言葉からして本土とは違う。
島の出身者は、本土との係わりにおいて、複雑な思いが存在する。
出身地に対する劣等感。
本土の人間には負けたくないという競争心。
光彦の両親が結婚したのは、見合いであった。
同じ島出身同士で結婚することで、「既定の概念」の修正は比較的少なくて済んだ。
しかし、本土の人間と、自分達種族の違いに対するコンプレックスは薄まることはない。
光彦の母、雅子が結婚した当初、夫が建てた家の周りに他の家は殆どなかった。
あるのはひたすらキャベツ畑。
雅子は夫が仕事を終えて帰ってくるまで、ひたすら庭につながれた犬に水をかけて、犬が騒ぐのを見て過ごした。
長女が生まれると、子育てにのめり込んだ。
長男が生まれ、次男が生まれると、家は賑やかになった。
上京してきた親戚も、下宿させた。
長女と長男には、ピアノを習わせた。
次男の光彦は、リトルリーグに入れた。
子供達には勉強をしっかりやらせるつもりだった。
「子供達は自分のように苦労させたくない」
貧乏で学校へ行かせてもらえなかった想いが、消えることはなかった。
そして、子育てがある程度区切りがついたと感じた頃、雅子は通信制の高校に通うことにした。
雅子は勉強できる喜びを噛み締めた。
通信高校卒業後も、ありとあらゆるカルチャースクールに通った。
興味のあることはやらずにはいられなかった。
何事も前向きに取り組んだ。
そんな時、光彦が財布からお金を抜いていることがわかった。
雅子は夫に相談した。
「おまえが、財布の管理をしっかりしてないからだ」
と、怒られた。
「光彦には、どうするの?」
「・・・・・」
夫婦の「既定の概念」の中に、子供が財布から金を抜いた時、叱るべきか?という項目はなかった。
結局、光彦はそのことで叱られなかった。
悪いことをしたのに、気づいているのに、叱られないことで、光彦は傷ついた。
自分が財布の中からお金を取ったことは気づいているのに、怒らないのは何故なのか。
子供だった光彦には、「親が弱いから」という結論を出す力はなかった。
光彦の「既定の概念」の1頁。
「親の財布からお金を取ったら?」の項目は、「不明」と記入された。
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