Atypical Ways 非定型の道

緘黙(かんもく)

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幼稚園に何年行っていたのかは憶えていないが、2年は通ったのではないだろうか。

 

3年通う子もいたようだが、名札の色が違っていたと思った。
あまり多くはなかったような気がする。
3年通ってた子は威張っていた訳ではなかったので、たぶんTypical(典型)は2年で、幼稚園に3年通うということはバカにされる何か理由があったんじゃないかと思われた。
親が面倒みてくれないとか、家庭の事情とか。
しかし当時は幼稚園に行っていない子供も結構いたと思うが、『郷に入れば郷に従え 』という言葉のように、園に入っては多数派に従えということだったのだろう。
いずれにしても、私は2年だったが転入してきたという時点でAtypical(非典型)だったということなのだろう。

私は幼稚園生であることがとても恥ずかしかった。
少なくとも私は「幼稚」の意味を知っていた。
「バカ」ということだ。
小学生達が「や~いようち!ようち!」といって知的に遅れのある子を虐めていたのを知っていた。
私は自分が馬鹿の集団に属さなくてはいけないことが、我慢ならないほど恥ずかしかったので、幼稚園の帰りには名札を隠して歩いたと思う。

ムーミン谷のミイのような鼻をした女の子が、「私のほうがあんたより大きいんだからね!」といって自分のほうが偉いということをあえて誇示しなくてはならない理由は何か、私には検討がつかなかったし、何人かの園児は物珍しそうに私を見ていたのだろうが、その中の数個の目にはあきらかに敵意があったように思う。
彼らは何を憎んでいた、あるいは、恐れていたのだろうか。

先生は、「新しいお友達よ、みんな仲良くしてあげてね、わからないことは教えてあげて」みたいに私を紹介したと思う。

優しい子、優秀な子は、私がやるべきことを全て私の代わりにやってくれた。
ありがたいとは思わなかった。
その優秀な子は頼んでもいないのに勝手に人の仕事を取ってしまって、自分の手柄にしたいんだろうと思ったからだ。
そして、そんな風に何もしない私を見ていて、敵意をむき出しにしてくる子もいた。
彼らは私に対して言った。
「出来るくせに!」
そこには嫉妬の感情もあったのかもしれない。
私は私の仕事をとりあげて勝手にやってしまう優等生の子のやることを止めさせ、自分でやったほうがいいのか、あるいは、そうしたらその優等生の子は怒り出すのかが判らなかった。
その優等生の子もたぶんそれほど頭がいい訳ではなく、先生に言われたとおりにやっていただけだと思われ、そこに私の存在はなく、私に対して気転を利かせて「あんな奴のいうことなんか気にするなよ!」なんて言えるほど、能力はなかったのだろう。
その子は私のやるべき仕事を勝手にやって、私を見もせず、自分の席に帰った。
そういうときに自分はどう動けば正解だったのか。
この辺は今でもよく判らない。
そういうことがあると、その当事者の子の言動には気をつけるようにしたが、最終的には殆ど全員の子に気をつけなくてはならなくなってしまった。

彼らは私にちょっかいを出してきた。
「なんでしゃべらないの?」「しゃべれないの?」「何かしゃべってみろよ」「あたまわるいんじゃないの?」「ほら、『あ』っていってみろよ、いえないの?いえよ!」

私は勿論、言えない訳ではなかった。

私は「あ」と言った。

彼らは「喋ったよ~!逃げろ~!」と走り去っていった。

私は言葉が理解出来なかった訳ではなかった。
何を喋ればいいのか判らなかっただけだ。

そもそも、彼らと友達になりたいと思っていなかったし、一緒に遊びたいなんて思いも全くなかっただけだ。
ただ早く終了の時間になって、園から開放してほしかった。
私は毎日幼稚園で何をしていたのかと言えば、後何時間でここから帰れるのかをカウントダウンしていたのだ。
なるべく目立たないように、園庭の隅に立ち、他の子供から距離を取り、私はガードマンのように建っていた。

女の子が、近くに寄ってきた。
彼女はたぶん、知的障害があった。
幼稚園で私も喋らなかったが、彼女も喋らなかった。
たぶん、彼女は喋る能力がなかった。
彼女は、背後から私に黙って近づいてきた。
私は彼女が何をしたいのか判らなかったので、そのまま立っていた。
彼女は、私をつねった。
私は少し逃げた。
すると、彼女はまたつねった。
私はまた少し逃げた。
彼女はまた追いかけてきてつねった。
私はまた逃げて、彼女の正面を向いて、身構えた。
彼女はゆっくりと近寄ってきて、私の手をとった。
そして、私の手の甲に爪をたてて、肉を引きちぎるほどにつねった。
私は手を腰の後ろに隠し、彼女の目を見た。
彼女は、私を睨みつけた。
この子の望みはなんだろう?
私は、彼女にとってなんなのだろう?
何故、私にそこまで憎しみをぶつける必要があったのだろう?
私はとりあえず他の子たちの群集の中に逃げた。
彼女も他の子たちに虐められていたので、他の子たちの群集に逃げた私を追いかけてはこなかった。

私は一人で幼稚園には行けなかったのだが、母は一人で行ってほしかったのだと思う。
私は母に手を引かれて幼稚園に通った。
私たちの先に、同じ幼稚園に通う子が一人で歩いていた。
その子は私たちに気づいた。
その子はTypicalな優等生で、父は柔道をやっていて、その子も柔道を習っていた。
その子は母に元気良くあいさつが出来た「おはようございます!」
母は言った。「おはよう!えらいね」
その子はにっこり微笑んで、その後偉そうに私を見た。
私は恥ずかしかった。
母は、「ねえ、〇〇ちゃんはあいさつも出来るし、ひとりで幼稚園まで歩いていくんだよ?あなたも出来るようにならないかねえ?」と言った。
母は一つのカン違いをしていた。
私の問題は幼稚園に一人で行けないことではなかった。
私は、幼稚園に行きたくないのだから。

先生がいる間はまだよかった。
みな、勝手な行動を取ることを規制されていたから。

幼稚園についてから、先生が来るまでの時間と、休み時間が地獄だった。

彼らは狂ったブタのように私に突進してきたり、髪の毛を引っ張ったり、服を引っ張ったり、私が黙っているのをいいことに何でもし始めた。

誰かが小さなクワガタのメスを持ってきていた。
「幼稚園に動物持ってきちゃいけないんだからね!」と典型的な優等生の一人の女の子が言ったが、クワガタを持って来た張本人は、優等生を無視してクワガタを積み木の車に乗せて走らせた
りして遊んでいた。
そこへ典型的な悪ガキがクワガタを乗せた車を掴んだ。
クワガタを持って来た子は、「ぼくのだよ、返せよ」と言った。
悪ガキは、クワガタの上に、他の積み木の車を落とした。
クワガタは白い内臓が出て、動かなくなった。
クワガタを持って来た子は泣いた。
優等生の女の子は「持ってきたのがいけないんだからね!」と言った。
悪ガキもその事態に少し動揺していたと思うが、先生に叱られるのが嫌だったのだろう。
「持って来たのが悪いんだ!オレが悪いんじゃない!罰だ!」と言った。
私はただ見ていただけだが、クワガタは死んで良かったと思った。

少なくとも、早く死んだ分、早く生まれ変われるのだから。

でも、そう思っただけで、泣いている子を慰めてはやらなかった。
私も「見せびらかすためにクワガタを持ってくるのは悪い」ことだと思っていたし、仮に私が「死んでよかったんだよ」なんて言っても何をいうのか想像がつかなかったし。
私もクワガタのように潰されたいわけじゃないし、下手なことをいう勇気はなかったのだ。

大体、彼のことを私は好きじゃなかった。

私は誰も好きではなかったのだ。

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