プロローグ その2 彰秀と光彦 – なりゆき主夫のリアルな日常 – 楽天ブログ(Blog)

洋子の夫、彰秀は平凡な旦那だった。
洋子とはデザイン学校で知り合い、その後、露天のサングラス売り、生命保険会社の営業職員等、職を転々としている。
保険会社の営業に自信がもてなかった彰秀は結婚後、仕事を辞めた。
しばらくして、小規模な出版社の仕事を見つけてきた。
給料は安く、将来的に期待も出来ないが、一応サラリーマンであるし、露天や勧誘員よりは世間体も良いだろうとの軽い気持ちで、就職を決めたのだ。
義母と同居することにしたのも、積極的な理由があったからではなく、義父が亡くなった後、義母の雅子が一人では不安だという、洋子の気持ちは判っていたし、長男である義彦が何れは同居するとしても、「新婚時代は別居したい」というのも理解出来た。
そして、実家に入れば家賃も浮くという計算もあった。
ただ、彰秀も人付き合いが得意なタイプではなく、同居のストレスを感じない訳ではなかった。
元々、母親一人、片親で兄弟3人と一緒に育った彰秀は、子供の頃は不登校の問題児であり、人との係わり合いは年齢とともにある程度克服してきたが、所詮、飲食店で働く母しか知らない彰秀にとって、建築関連の社長の娘である洋子の家庭は、多くの側面で「既定の概念」は食い違っていた。
その環境の違いに慣れることは容易ではなかった。
必要以上に帰りが遅く、飲んで帰る日が多くなった。
現実逃避である。
彰秀がストレスを溜めているのは、光彦には判った。
「穂高さんの気持ちも考えてやれよ」と雅子に怒ったのは、光彦だけだった。
おそらくは、光彦自身が、「自分の気持ち」も雅子に考えて欲しかったのだろう。
光彦も結局、彰秀と同じように平凡で、気の弱い男だった。
学生時代、いくつか面倒をおこして学校を替わっているし、就職しても、続かずに職を転々としている。
彰秀と光彦の違いは、親が頼りになるのか、ならないのか。
彰秀の実父は小学生の頃離婚し、3人兄弟は母親が一人で育てた。
大人になった彰秀は、自分には常に何かが足りないと思っていて、常に自信をもつことが出来ずにいる。
それは、頼れる人間がいないことに対する不安である。
光彦は両親が揃って物質的には恵まれていたが、自分がいざ頼りにしようと思ったときに、スカされる、頼らせてくれないという不安があった。
それを引きずって大人になってしまったのだ。
その原因は、光彦にも、雅子にも、判らない。
いや、たぶん判ってはいるのだ。
その瞬間が原因そのものなのだが、それを特定する自信がない。
おそらくは「子供はこうあるべき」「親はこうあるべき」という、「既定の概念」がお互いの歩み寄りの邪魔をしているのである。
それらの概念にしがみつき、依存し、強いては自分も、相手も、甘やかしてしまうのだ。
家族で「既定の概念」が食い違っていることに気づかないと、それは不幸なことになる。
カウンセリングを受けても、医師に相談して精神安定剤を飲んでも、家族間で「既定の概念」を統一する努力を怠ると、問題は根本的に解決しない。
光彦にとって不幸であったのは、父親が亡くなったことによって、親と自分の同化に成功するチャンスも失ってしまったことだった。
自分で築いた家庭において、夫の役割を演じるのに失敗した光彦は、勇気を出してもう一度やり直そうと思った。
スナックで知り合った美佐子という19歳の女性と、その連れ子の花子という娘と。
今度は、実家の近くで、実母雅子と姉、洋子の力も借りて・・・
ブログランキングです。
応援していただけるなら、こちらをクリックしていただけると嬉しいです。
blogranking2

タイトルとURLをコピーしました