プロローグ その8 美佐子の妊娠 – なりゆき主夫のリアルな日常 – 楽天ブログ(Blog)

美佐子には父がいなかった。
美佐子の母には、美佐子を育てる能力がなかった。
美佐子と弟は、親戚夫婦の家に里子に出された。
美佐子と弟は、親戚夫婦の実子と共に育った。
実際にどのように育てられたのかは、わからない。
美佐子は、教育相談も受けていたようなので、放置されていたのではないようだが。
一つ判っているのは、美佐子が雅子に、育ての親に感謝していると話したことは一度もないということ。
雅子はある意味、美佐子という女は可哀想だと思った。
自分を産んだ親にも捨てられ、愛情を与えらずに育ち、結婚相手にも三行半をつきつけられた美佐子。
でも、それを雅子に淡々と語る美佐子を見ていても、湧き上がる感情は、違和感だけだった。
「だからといって何故、私がこの女の面倒を見なくてはいけないの?」
もしかしたら、光彦はこの女がいなかったら本当に神経が参っていたかもしれない。
でも・・・もうちょっとマシな女はいなかったのだろうか。
こういう観念がどれほど傲慢なことなのかは判っていても、思いを改めることは出来なかった。
自分以上に、美佐子の方が上回っていると思う。
「子供を育てることは自分には出来ないから」
そんな道理が通る世の中は、雅子は知らなかった。
しかも、美佐子は現在、妊娠している。
「今度は光彦さんの子だから」
今日、美佐子が雅子に話した内容は、光彦との子供が出来たから、しばらくすると仕事が出来なくなるので、家賃払えなくなるから同居させて欲しいというお願いだった。
自分勝手過ぎる。
恐喝?強請?
「あんたは、自分でなんとかしようという気があるの?」
「それは無理だから」
「仕事しなければいけないから」
そして、最初の自分の育った境遇から、巻き戻し再生が始まる。
美佐子と話しても怒りが増すばかりなので、後に雅子は光彦と話すことにした。
光彦は、「無理にとはいわないよ、だったらいいよ」と言った。
「無理だったらとかじゃなくて、あんた、自分がやってることに責任を持ちなさいね!自分のことなんだからね」
雅子は、説教はしても、光彦は結局は自分に縋り付いて来ることを知っていた。
そんな男に育てた覚えはなかった。
何がいけないんだろうと考えても、答えは出てこない。
結局は自分がそう育てたのだ。
光彦の最初の結婚が破綻したときも、雅子はある意味、ほっとした部分もあった。
それが何故なのか説明は出来ないが、前の嫁は、自分と上手くやっていこうという前向きな努力を怠っていたと思っていた。
失敗したのは残念だけれど、若いし光彦はまたやり直せばいいと思っていた。
今の状況は前と比べて良くなったのかどうか。
美佐子の方が、前嫁よりは文句は言いやすいかもしれない。
逆に、そこまで干渉しないとどうしようもないほど、「家庭」の体裁を成していないとも言える。
いずれにしても、妊娠がお目出度いと思えないような環境は、自分が望んでいた環境ではなかった。
誰も育てたくいない子供なら、産ませるべきではないのではないか。
雅子は同居していた娘の洋子に相談し、洋子は夫の彰秀に相談した。
雅子も洋子も、彰秀に決めてもらおうと思った。
それは彰秀が人徳があるからという意味ではなく、あくまでも、自分達だけで決めることは出来なかったからだ。
彰秀にしても、状況が把握出来ていない訳ではなかった。
妊娠は、光彦と美佐子の「計画的犯行」のような気がした。
そして、それに気づいているが、ただ単に、皆が「中絶」という選択肢を口にする勇気がないのだということも悟った。
そして、彰秀も皆と同じで、逃げたともいえる。
「中絶という言葉を使うのは簡単だ。でも、その命を消せということをオレが決めることは出来ない。オレに言える事は、皆で頑張ってなんとかすれば、なんとかなるかもしれないってことだけだ。他に何が言えるんだ?それ以上、何もいえないだろう」
考えようによっては、現実に立ち向かったともいえるのだが。
何が現実なのか?
「既定の概念」は、人それぞれであり、誰が何を頑張るのか?
とりあえず結論を先延ばしにしただけではなかったか?
とにかく、一人の人間の命が誕生することで、状況は良くなる場合もある。
そちらに賭けても、いいのでは?と思ったのだ。
光彦と美佐子は、アパートを引き払って、家にやってきた。
二人が持っていた物は、店に着ていく洋服と、サラリーマン金融の返済プランの明細くらいであった。
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あ?、それから、この話はあくまでもフィクションです。
登場人物は実在しません。
ですから、こいつはなに考えてんだとか、許せないとか、こういう描き方は酷いとか、よくわからんとか、ご意見、または要望等ありましたらコメントお寄せくださいますよう、お願いします。
適宜に?今後の展開に取り込ませていただきます・・・

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